東京高等裁判所 昭和57年(ネ)3024号 判決
中学又は高校時代の友人でともに成人式を迎える者の前祝いをすることとなり、事前に連絡し合った亡河村隆司、原審被告渡辺利光、訴外古川雅敏、同海老名洋介、同南雲良治ら約一〇人が、昭和四九年一月一四日夜九時ころ東京都葛飾区小菅所在の喫茶店「アイアイ」を集合場所にして落ち合った後、古川と隆司が運転してきた二台の車に分乗して同区亀有所在のスナック「パブフレンド」に移った。後から合流した訴外野寺延幸、同夏見正樹らを含め、皆でウイスキーなどを飲みながら歓談し、翌一五日午前零時ころおひらきとなって全員店を出た。そこで、古川は最寄りの駅である京成青砥駅まで他の者を送ってから帰宅するつもりで自分の車に伊藤某、吉田某ら四人を乗せ、「パブフレンド」から青砥駅までの運行を果すべく運転席に就いた。隆司も本件自動車で古川車と同じように最寄りの青砥駅から帰宅する友人南雲、野寺、夏見らを同駅まで送ってから自分も帰宅するつもりで、右友人南雲らを本件自動車に乗車させ、「パブフレンド」から青砥駅までの右運行に従事すべく運転席に就こうとしていたところ、たまたま渡辺が友人海老名を誘って青砥駅から徒歩一分ほどの近くにある自分の下宿(葛飾区青戸二丁目一三番一五号富士荘)に連れて行って飲み直すつもりになって本件自動車に便乗する意向であったことから、「パブフレンド」から青砥駅に至る本件自動車の右運行を自ら買って出て、隆司に対して執拗に自分に車を運転させて欲しいと求めてきたので、隆司は渋々これを承諾して車の運転を渡辺に委ねることにし、車の鍵を渡辺に渡して自らは後部座席に乗車した。その時には、既に助手席には渡辺の下宿に飲み直しに行くことを誘われていた海老名が、後部座席には帰宅するつもりになっていた南雲、野寺、夏見が乗車していた。渡辺は、先発した古川車の後に続いて本件自動車を発進させ、古川車に追尾進行し中青戸小学校前付近まで来たが、古川車が亀有駅と青砥駅とを結ぶ亀有新道との交差点内で左折の合図を出してわずかに左折しかけた時点で、これを右側から追い越すようにして交差点を直進し、その直後運転操作を誤り、車を左右に大きく蛇行させたあげく、右端ガードレールに車体の右側面を激突させて横転させて本件事故を起した。渡辺は昭和四六年に自動車運転免許を取得し、時折友人の車を運転した経験があり、事故当時飲酒した後ではあったが、運転できない程酩酊しているようには見受けられなかった。
かように認めることができる。<以下略>右の事実によれば、渡辺は隆司から鍵を受け取って運転を開始した時から本件事故に至るまで本件自動車に対する運行支配を有していたというべきであり、また隆司は、「パブフレンド」を出た時自ら本件自動車に帰宅する友人を乗せて青砥駅まで送ろうとして、ただその運転を渡辺に委ねただけで、自らも同乗して「パブフレンド」から青砥駅に至る区間における本件自動車の前示運行に従事していたのであるから、渡辺と共に本件自動車の運行による利益を享受し、これを支配していたものであって、単に便乗していたものではないというべきである。したがって、隆司と渡辺とは本件運行において共に運行供用者であったといわなければならない。そして、運行供用者としての両者の関係をみると、隆司が所有者として右のように同乗している以上、同人は渡辺に対して運転の交替を命じ、あるいはその運転について具体的指示を与えることができる立場にあったのであるから、渡辺が隆司の運行支配に服さず、同人の指示を守らなかった等の特段の事情がない限り、本件自動車の前示具体的運行に対する隆司の支配の程度は、運転していた渡辺のそれに比し優るとも劣らなかったものというべきである。
被控訴人らは、隆司が本件自動車の運転を渡辺に委ねた際、隆司は「隆司、南雲、野寺、夏見ら同乗者は帰宅するのだから青砥駅で途中下車させること。」との指示を与えたのに、渡辺は、本件車の運転を委ねられたときから青砥駅に寄るつもりはなく、先行する古川車が本件交差点を左折しようとしていることを知りながら交差点を直進して隆司の指示を守らなかった旨主張し、≪証言≫中右主張に副う部分があるが、右証言部分は、≪証拠≫に徴してにわかに措信しがたく、ほかに被控訴人らの右主張事実を認めるに足る証拠はない。かえって、前叙認定にかかる証拠資料を総合すると、渡辺が本件自動車を運転するに当って、隆司は「ハンドルに遊びがある。」旨一言いったのみで、格別の指示をしたわけでもなく、また渡辺としても、同乗者のうち帰宅するつもりの者がいたことを十分承知していて、古川車について行けばよいというつもりで、これに追尾進行し、本件交差点で古川車が左折の合図をし、わずか左折しかけた状態となったのをみて右状態を追い越して先に行けという合図と勘違いして本件交差点を直進しただけのことであることが認められる。
次に、被控訴人らは、渡辺に本件自動車の運転を委ねた際、隆司は「飲んでいるので運転には特に注意すること。」「車のハンドルに遊びが多いから、ハンドル操作は慎重にすること。」との指示を与えたのに、渡辺はこれを守らなかったから本件事故を惹起した旨主張し、≪証言≫中右主張に副う部分があるが、右証言部分は≪証拠≫に照らして措信しがたく、ほかに証拠もない。
以上の認定事実によれば、本件自動車の前判示の運行において、隆司及び渡辺の両名は共に運行供用者であり、かつ、その運行支配の程度においても、渡辺が隆司の運行支配に服すべき立場にあったというべきであるから、本件自動車による本件運行につき所有者である隆司は運転者である渡辺に対する関係において自賠法第三条にいう他人には該当しないというべきである。
(中川 梅田 菅)